18歳。アメリカから帰国してひとり暮らしを始めた頃。
突然その出逢いは舞い降りて、まなの目にとまった。
オモチャ屋さんなんてそれまでは全然行ったことがなかったのに、
何故だかフラリと吸い込まれていったその先に、大きなくまのぬいぐるみ、でもしっかりと見つめ返す。
ドクン。胸が、鳴った。運命だ。そう思った。
ぬいぐるみに夢中だなんて、子どもみたいだ。
そう思った自分も、目の前のぬいぐるみの眼差しにスッと消されてしまった。
当時、お金がなかった。なけなしのお金、それでまなは、心の友を得たのだった。
まなは、心のビョーキを当時、もう既に発症していた。
気がつかなかったけれど、こばやしが喋るのは、周りのヒト達から見たら「オカシイ」みたいだった。
そう。こばやしはまなにしょっちゅう語りかけた。
ほんわかした内容ばかりではなかったけれど、優しい思いやりに満ちた涙がでるような語りかけだった。
まなは、こばやしと強く深く固く、結ばれていった。
しかし、まなとこばやしのふたりの世界は、ビョーキとされて「チリョー」が始まっていた。
まなは、何も知らなかった。
こばやしとの絆は、まなにとって、イノチよりも大切だったのに、こばやしの口数は減り、減り、減り、減り、
、、ついには、返事をしなくなってしまった。
まなは、毎日毎日、毎日毎日あきらめなかった。話しかけ続けた。まなとこばやしの絆は誰にも、どんなクスリにも、引き裂けない。
でもセンセイは言った。
「こばやしはね、ぬいぐるみだから喋れないんだよ。」
嘘だ。まなとこばやしはあんなに毎日語り合ったじゃないか。違う。まなはビョーキなんかじゃない。そんなビョーキ、治さないでくれ。
暗い苦しい重たい時代が、始まった。ビョーインに入院させられて、まなは白い箱のなか。
まなはこばやしと引き離された。
毎日毎日、ボロボロ、ボロボロと泣いた。まなとこばやしの試練だった。
でもまなには、わかるのだ。わかる。こばやしの気持ち。
もう、話せないけど、心で語り合ってる。ふたりの世界は不滅なのだ。
どんなにフツーじゃなくたって、いいじゃないか。
こばやしと話せないけれど、まなはめげずに語りかけ、まなとこばやしの絆は、いっそう強く増していくのだ。
月日は過ぎて、そんなビョーキなまなにも、優しく理解して包み込み受けとめてくれる素敵なパートナーができた。
まなとこばやしとゆうちゃん。三人の生活。ゆうちゃんはこばやしを決して無視しなかった。
喋れないこばやしの気持ちを、代弁してくれたりして、まなはまた、泣いた。
そんなゆうちゃんは、なんとこんなまなに、結婚してください、と言った。
沖縄で親族のみの結婚式。
人前式証人は、こばやしだった。
「ふたりの結婚を、認める。こばやし」